群間で比較を行う際に「対応のある検定」が用いられることがあります。ですが、意外と対応のある検定をすべきところで対応のない検定が使って解析した結果がなされていることがあります。
今回はそんな対応のある検定を使うタイミングとその種類を簡単にまとめます。
対応のある検定を使うタイミング
同じ対象に繰り返し行った評価を比較する
一番わかりやすいのが、「同じ対象に繰り返し同じ評価を行い、その結果を比較する(変化があるか調べる)」と言う状況です。例えば、次の論文をみてみます。
高齢者を対象にグループで歌う活動を週に75分、12週間実施し、認知機能などがその介入の前後で変化したかを調べています。そのため、例えば認知機能については語流暢性検査を介入の前後で実施し、その平均値を”paired t-test(対応のあるt検定)“で比較しています。
また、同様の状況でノンパラメトリックな検定を使う場合は”Wilcoxon signed rank test(ウィルコクソンの符号順位検定)“が使われます。
この論文では、ナーシングホームで暮らす認知症の人の午後のカフェイン摂取をやめる前後でBPSDを評価したところ、睡眠とアパシーが改善した、と言う報告ですが、介入前後のNPI-NHをWilcoxon signed rank testで比較しています。
3回以上繰り返した評価を比較する場合、パラメトリックな変数では”repeated measures ANOVA(反復測定分散分析)“を用います。
この論文では、ナーシングホームで暮らす認知症の人に音楽療法を行い、音楽療法前、2週間の音楽療法後、さらに2週間後、その後しばらくしてから、の4回抑うつ症状を評価し、その変化を調べるのに、repeated measures ANOVAを用いています(残念ながらpost-hoc testをどのようにしたか記載が見つけられませんでしたが・・・)。
2値変数に対して対応のある検定をするときは、”McNemar’s test(マクニマー検定)“を行います。例えば、勉強をする前後に同じテストを実施して、テストの合格者数に変化があるか(合格か、不合格か、と言う2値の分布に変化があるか)を検定するのに使います。この検定を少し特殊な状況で使っているのが次の論文です。
bvFTDと病理診断された患者の生前の症状から、これまでの臨床診断基準と新しい臨床診断基準のbvFTDを満たすかどうかに違いがあるかをMcNemar’s testで検定しています。対応のある検定は、「同じ対象に同じ評価を別のタイミングで行った時に、変化を調べるもの」と言う認識をしがちですが、この例から分かるように、「同じ対象に別の評価をしていても、結果として出てくる2値変数が同じ(bvFTDの診断基準を満たすかどうか)であれば、それを比較するのに対応のある検定を使う」わけです。
マッチングした対照群との比較
年齢や性別をマッチングさせたり、最近だとpropensity scoreを用いてマッチングさせた対照群との比較を行う研究があります。このようなマッチングした対象と比較するの場合、ある被験者とその被験者にマッチングさせた対照と言うペアができます。そのため、このようなマッチングした対照との比較では対応のある検定で比較します。例えば、次のような論文です。
この論文は、脳梗塞に対してr-tPAによる血栓溶解療法の長期的なアウトカムを調べるために、r-tPAを行っていない対照群をpropensity scoreでマッチングさせて作成し、その後1年間のうち自宅で過ごす日数に違いがあるかをpaired t-testで比較しています。
ただ、このマッチングした対照群との比較を対応のある検定で行うべきかどうかは議論の余地があるようです。実際に対応のない検定で比較している論文も多くあります。
対応のある検定の種類
対応のある検定の種類ですが、基本的にはここまでに上げてきた”paired t-test”、”Wilcoxon signed rank test”, “McNemar’s test”, “repeated measures ANOVA(反復測定分散分析)”が代表的な検定です。
そのほか、対応のある3群以上でノンパラメトリックな変数を比較したい場合は、”Friedman test(フリードマン検定)”を利用することになります。
検定 | 使い所 |
---|---|
paired t-test 対応のあるt検定 | 対応のある2群のパラメトリックな変数の比較 |
Wilcoxon singed rank test ウィルコクソンの符号順位検定 | 対応のある2群のノンパラメトリックな変数の比較 |
McNemar’s test マクニマー検定 | 対応のある2群の2値変数の比較 |
repeated measures ANOVA 反復測定分散分析 | 対応のある3つ以上の群でのパラメトリックな変数の比較 |
Friedman test フリードマン検定 | 対応のある3つ以上の群でのノンパラメトリックな変数の比較 |
Cochran’S Q test コクランのQ検定 | 対応のある3つ以上の群での2値変数の比較 |
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