今行われている臨床試験を知る-Web上の臨床試験の公開データベース

研究計画の公開データベース 臨床研究計画
研究計画の公開データベース

前回、治験などの仮説検証的研究では、事前にきちんと研究計画がなされ、後付の仮説ではなく事前に仮説を設定し、その検証に沿ったプロトコルを用意していることを、公開データベースに登録している、という話をしました。

このようなデータベースは、事前に計画を公開することによるプロトコル違反などの不正防止と、被験者保護がそもそもの目的ですが、視点を変えると「現在進行形の大規模な臨床試験を探す」ためのツールにもなります。

クリニカルクエスチョン(CQ)に出会い、それが研究するに値するか(リサーチクエスチョン(RQ)たるか)を検討するのに、これまではガイドラインやすでに出版されている論文に当たるということを話していましたが、今までにエビデンスはなくても、実は今大規模臨床試験がされていて、自分がデータを集めた頃にはその結果がpublishされている、となっては、せっかくのデータ収集が徒労になってしまう可能性があります。

そこで今回は、そのような公開データベースにどんなものがあるかを紹介します。

スポンサーリンク

ClinicalTrials.gov:アメリカの公的データベース

まずは、前回例に挙げた、ClinicalTrial.govです。

Home – ClinicalTrials.gov

ClinicalTrials.gov is a resource provided by the U.S. National Library of Medicine. IMPORTANT: Listing a study does not mean it has been evaluated by the U.S. Federal Government. Read our disclaimer for details. Before participating in a study, talk to your health care provider and learn about the risks and potential benefits.

アメリカの公的なデータベースで、臨床試験のデータベースとしては当然国際的に一番使われています。日本の研究も多く登録されています。

トップページの”Condition or disease”の所に疾患名を入力すると、その疾患を対象とした臨床試験の検索結果一覧が出てきます。

例えばここではPrimary progressive aphasia(PPA, 原発性進行性失語)を入力してみましょう。すると、なんと163件ものPPAに関する臨床試験が出てきます。みてみると、TMSやDCS、つまり電気刺激や磁気刺激による治療の臨床試験がちらほらあります。

検索結果の左のカラムのチェックボックスで、現在リクルート中のもの、すでに終了したもの、など、研究の状態を限定して検索することもできます。

例えばPPAの研究で既にcompleteしているものだけを抽出すると、それでも50件存在します。contition or diseaseをみると、多くがFTLDの枠内でPPAを取り扱っているようです。

その中で、PPAを対象にしたものとして一番上にヒットしたのがこれ。

Preventing Language Decline in Dementia – Full Text View – ClinicalTrials.gov

This study will establish factors fundamental to the improvement in communication and quality of life for people with dementia known as primary progressive aphasia (PPA). PPA is a type of dementia in which language declines but other cognitive skills (including memory) are preserved in the first several years after the onset.

2019年7月に終わった臨床試験のようで、PPAに対する言語リハとして、個別リハと集団リハをRCTで比較する、というデザインのようです。

まだこの領域の研究はほとんどない状態なので、リクルートする患者数は20例と少ないですが、このように研究として成立するわけです。

UMIN:日本の大学病院医療情報ネットワークセンター

日本で有名な臨床試験のデータベースはUMINが提供しているUMIN-CTRです。

医学情報・医療情報 UMIN

INDICE インターネット医学研究データセンター UMIN(大学病院医療情報ネットワーク = University Hospital Medical Information Network) は、国立大学附属病院長会議のもとで運用されているネットワークサービスで、大学病院業務(診療・研究・教育・研究)及び医学・生物学研究者の研究教育活動の支援を目的としてサービスを行っております。 ※このサイトは 医学・医療・生物学系の研究者・専門家及び 大学病院の教職員・学生 を対象としており、一般の方向けにはなっておりません。

UMINの中に「臨床試験登録システム」というものがあり、UMIN IDを持っている研究者はこのシステムを用いて臨床試験を登録できます。


臨床研究法が施行され、医薬品等を用いた介入研究は原則として事前に公開データベースに登録するよう義務づけられましたが、その中でよくClinicalTrials.govとUMINは登録データベースの例として挙げられます

当然ですが、ClinicalTrials.govほど多くの研究は登録されていません。実際にPPAを英語名、日本語名の療法で検索してみましたが、1つもヒットしませんでした。

英語で論文化することを考えるのであれば、英語のデータベースに登録する方が良いでしょう。

なお、現在進行形のデータベースとは違いますが、最新の日本の研究を知るという点では、日本学術振興会のHPで科研費に採択された研究計画のデータベースを見るのもありですね。

WHO Primary Registries:WHOの基準を満たしたデータベース

世界保健機構(WHO)が治験・臨床研究のデータベースとして一定の基準を満たしたものを”WHO Primary Registries“として指定しています。

Primary Registries

Primary Registries in the WHO Registry Network meet specific criteria for content, quality and validity, accessibility, unique identification, technical capacity and administration. Primary Registries meet the requirements of the ICMJE.

2019年9月現在、10個のデータベースが指定されています。

日本のデータベースとして”Japan Primary Registries Network (JPRN)”の名前が挙げられています。これは上述のUMIN-CTRとJapicCTI、JMACCT CTRという3つの既存のデータベースによるネットワークで、この3つのデータベースから一括で臨床研究を検索できるシステムが構築されています。

ClinicalTrials.govがWHO Primary Registriesに含まれていないのがアメリカらしいですね。

Cochrane Libraryを臨床研究検索に使う

日本の研究者がよく使うであろうデータベースとしてClinicalTrials.govとUMINを紹介しましたが、世界には多くの臨床研究登録データベースが存在します。

データベースそのものではないですが、Cochrane Libraryは様々なデータベースに登録されている臨床試験を一括して検索することができます。

実際にCochrane Libraryで”Primary progressive aphasia”で検索すると、残念ながらまだレビューはヒットしませんが、Trialsが97件ヒットします。

多くがClinicalTrials.govに登録されたものですが、しばらくするとISRCTN(イギリスにあるWHO Primary Registriesの1つ)に登録されている研究も出ています。

Better Conversations with Primary Progressive Aphasia (BCPPA)

Current plain English summary as of 04/04/2019:Background and study aimsCertain types of early-onset dementia, called primary progressive aphasia (PPA), initially present only as language difficulties. Speech and language therapists (SLTs) in the UK use a variety of communication training approaches to support people with PPA.

前向き研究を事前に公開データベースに登録する

このように、多くの前向き研究の計画が事前に公開データベースに登録されています。

世の中でどんな研究が今行われているのかを知る上で参考になるかと思います。

日本でも上述したように、医薬品等を用いた介入研究は原則事前に研究計画を公開データベースに登録することが臨床研究法で義務付けられているので、介入研究を考えている研究者はこの登録を避けて通れません。

観察研究でも、せっかく前向きに行うのであれば、公開データベースに登録すると、HARKingなどの可能性がない研究として、他の研究よりも評価されるので、登録を検討してもいいのでは、と思います。

研究内容が公開されるので、弱小研究室の研究だと同じ分野の強豪研究室がそれをみてバーっとデータを集めて先に論文を出されてしまうかも・・・などといった懸念があるかもしれませんが、逆に言えば登録したらパーッと短期間でデータを集めよう、というモチベーションにもなりますし、他のグループがそれを真似たとしても、公開データベースへの登録日がそちらのグループのリクルート開始よりも早ければ、オリジナルのアイデアだということも示せます。

研究計画の公開データベース

研究計画の公開データベース

また、今回冒頭で言及したように、このデータベースは「今行われている研究を調べる」という意味で、「同じような研究を無駄にしようとしていないか」という事前チェックにも使えます。

それにこういうデータベースをみると、「他の研究者たちは事前にここまで研究計画を練っている」ということがわかり、参考になると思います。

少しでも臨床研究を考えている人には、参考になるところが多くあると思います。

タイトルとURLをコピーしました