論文のIntroductionをどう書くか?-基本となる作法を身に着ける

Introductionの構成 論文作成・投稿
Introductionの構成

最近、論文のIntroductionを書くのが昔ほど苦痛じゃなくなってきた。というのも基本的にIntroductionでどんなことを書くのか(内容)は研究を始めたときに決まっていて、それをどのように書くか(構成)は一定のお作法が(少なくとも僕の中には)あるからです。

しかし、昔Introductionに四苦八苦していた自分を振り返ると、このどちらもぶれていたなと感じます。今回はそんなIntroductionを書くための内容と形式の話。

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論文のIntroductionの内容:研究目的とそこに至る過程

結論からいえば、Introductionに記載する内容は、「その研究の目的およびその目的に至るまでにこれまで積み重ねられたプロセス」になります。

研究には当然、何かを明らかにしたい、という目的があります。その目的を明確に記述することがIntroductionの一番の目的です。当然、この目的は、その研究を始めたときにあるはずです。それをとにかく記載するのです。

しかし、意外とこの研究の目的を明確にできていないままになんとなく研究というものをしている人も多い。そのせいでIntroductionがなかなか書けなかったり、そもそもきちんとしたデータ収集や解析ができていないことが多い。研究を初めてする人はまずこの「研究の目的を明確にする」ということを指導してもらうのが、研究計画、データ収集、解析、論文作成のいずれのプロセスのためにも大切でしょう。

しかし、唐突にその目的を述べられても、なぜその目的を達成することが重要なのかを理解してもらえなければ、その論文が重要なものだとは理解してもらえません。そこで、その研究目的を達成する必要があると思うに至った理由を語る必要があります。ただ、これも「自分がこんなことで困ったから」という個人の経験を語るだけでは説得力がありません。世間一般でこれまでどのようなことが行われてきて、その文脈の中で今回の研究目的を達成することにニーズが生じている、という流れが必要になります。

これは別に「自分がこんなことで困ったから」という個人の経験が出発点になりえない、と言っているわけではありません。むしろ、このような個人の経験から、「その困ったことを解決する方法を調べていたら、これまで世間ではそのことが解決されていなかった」と気づき、研究目的になるわけで、このような個人の経験が立派な出発点になるわけです。

このことは以前、「リサーチクエスチョンを事前に意識する」ことの重要性としてブログに書いたりしました。

論文のIntroductionの構成:研究目的を簡潔に説明する

Introductionの形式は、基本的に次のような構成になります。

Introductionの構成(4つの段落)

  1. そのテーマを研究することの重要性
  2. そのテーマについてこれまで研究されてきたこと
  3. これまでの研究で課題となっていること
  4. この研究でその課題のどのような点を/どのように解決しようとしているか(この研究の目的)

この4つの段落を、先行研究を引用しながら記述していくのがIntroductionの基本的な構成になります。結局、先述の「Introductionの内容」である研究目的とそこに至る過程を順を追って説明することになります。

ここで注意しなければいけないのは、Original articleのIntroductionはあくまでその研究の目的を説明するために構成されるべきで、網羅的なreviewをする場ではないということです。昔はIntroductionが非常に長いreviewになっている論文が多かったですが、近年は(分野にもよりますが)研究目的がきちんとわかる簡潔なIntroductionが望まれることがほとんどです。

Introductionの内容と構成の具体例(Lancet 2021; 398: 1487–97)

実際に、具体例として、Open Accessの論文を1つ紹介します。

認知症のagitationに対するミルタザピンという抗うつ薬の効果に関するRCTの論文です。

この論文のIntroductionは次のような段落で構成されています。

  1. 認知症は現在公衆衛生の重要な問題で、その中でagitationは介護のコストや介護負担を高め、QOLを下げる原因になっている。(認知症におけるagitationを研究することの重要性
  2. 認知症のagitationは重要な治療ターゲットだが、さまざまな原因で生じ、まずは非薬物療法が推奨される。しかし、2nd lineの治療として薬物療法が検討され、抗精神病薬の短期的な有効性が幾つか報告されている。(これまでにわかっている認知症のagitation治療の研究
  3. 抗精神病薬以外の薬剤のagitationに対する効果も検証されており、その中で抗うつ薬の有効性も報告されている。ただ、抗うつ薬の使用は心臓や認知機能への悪影響も報告されているため、臨床的な使用があまり広がっていない。また、このような抗うつ薬の処方はポリファーマシーの一部にもなっている。(認知症のagitation治療の課題
  4. ミルタザピンは高齢者にも用いられている抗うつ薬で、以前認知症の抑うつに対する効果を検証したが、抑うつに対する有効性を示すことができなかった。しかし、そのデータにおいて、ミルタザピンが他の神経精神症状に有効である可能性が二次解析で示唆された。(認知症に対する抗うつ薬の効果についてのこれまでの研究
  5. この研究では、ミルタザピンのアルツハイマー病のagitation治療における有効性と安全性を検証することを目的とする。(この研究の目的

5段落になっていますが、先程紹介した4段落での構成と基本的には同じ流れになっていることがわかるかともいます。

ちなみに、この論文では、ミルタザピンのagitationに対する有効性は示せなかった、という結果になっていますが、きちんと計画されたRCTの結果なので、negativeな結果でも有益なものであるとして、Lancetという一流の雑誌に受理されています。この辺りは、以前も書いた、「事前にリサーチクエスチョンに対する研究計画をきちんと立てていれば、ネガティブな結果にも意義がある」という話ですね。

リサーチクエスチョンを事前に意識すれば研究計画/結果解釈はこんなにも変わる
研究計画に際して、事前にリサーチクエスチョンを意識する意義とは?その方法と、その重要性を、①無駄な労力を避ける、②有意差が出なかった時の意義を理解する、という観点でまとめ。
Introductionの構成
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