論文以前にそもそも人に伝える文章が書けるか?-1つのテーマを論じるための”導入/話題/まとめ”を意識した文章の分割と統合

論文作成・投稿

大学院生の論文執筆指導をしているときによく感じるのが、学術論文を書く以前に、「人に伝えるための文章を書く」という経験が少ないために、内容以前の指導が必要になることです。英語力がどうか、ということではなく、文章の流れそのものが拙いのです。

今回は最近感じた、論文を書く以前に、そもそも「人に伝える文章を書く」ために必要と思うことをまとめます。

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その文章の大きな1つのテーマを確立する

書き慣れていないと感じる原稿でまず多いのが、「その原稿の一番大きなテーマが何か、が曖昧」というケースです。

1つの文章をつくり上げるためには1つの大きな筋の通ったテーマを意識することが重要です。論文は原著論文であればだいたいA4で8-10ページの文章になり、当然その中には複数の話題があるわけですが、それぞれの話題が大きくは1つのテーマを論じる、補強するために配置されているのです。その大きな筋となるテーマが何かをあらかじめ掲げておかないと、複数の話題の論点が微妙にずれてしまい、バラバラな話題の塊になってしまいます。これは論文に限らず、あらゆる文章に置いて陥りがちなポイントになります。

また、この大きなテーマを意識しておくと、自然と論文のタイトルが決まります。当然、このテーマを端的に表すタイトルになるはずです。

テーマを伝えるためのアウトラインを決める

原著論文は英語だとだいたい4000 words、日本語だと8000字くらいになるでしょうか。これは書くテーマが決まっていても、慣れていないと、なんとなく書き進めていたら自分がどういう流れで今何を伝えるべき文脈なのかを見失い、混乱してしまう長さです。

あるテーマに沿ってこの長さの文章を書き進めるためには羅針盤が必要です。つまり、アウトラインをまず作ることが大切です。

学術論文では大きな基本アウトラインが決まっています。すなわち、”Introduction / Methods / Results / Discussion / Conclusions”というアウトラインです。しかし、これでもまだまだ大雑把なアウトラインで、大学院生の書いてくれた原稿を見ているとIntroductionの中で話が迷子になっている、といったことがよくあります。この基本アウトラインの各要素の中で、さらにアウトラインを作ってから、文章を書いていくのです。つまり、まずは「この段落ではこういうことを書く」という見出しをまず並べてしまうのです。

例えば、最近の臨床医学の論文では、Introductionとして次のような構成が好まれる、という話がよくあります。

Introductionのよくあるアウトライン

第1段落:対象疾患の基本的な紹介

第2段落:その疾患に関する現在の研究トピックの紹介

第3段落:そのトピックに置いて未解決なままのテーマを提示

第4段落:この論文の目的(その未解決なテーマをどう解決するか)

Methods, Results, Discussionも基本的には同じようにアウトラインを決めてから書いていくと、何を書こうとしているか迷うことが減ってきます。いきなり長い文章を書こうとするのではなく、それを切り分けて、どのような順序で論じるかという構成を作ってから、各構成要素という短い文章を書くのです。

さて、ここまでの1つのテーマを決める、アウトラインを決める、という考え方は、学会発表の時に気をつけることと基本的に同じです。以前、学会発表の目的を明確にすべき、というテーマのブログを書いた際、ここまでとほとんど同じようなことを書きました。学会発表でも論文でも、伝えたいことを明確にするプレゼンテーションを構成する上で基本的なことは同じな訳です。

しかし当然学会発表と論文は異なります。大きな違いは、論文では図表は入るものの、基本的に文章で論旨を伝えないといけないということです。ということでここから先は、文章を書く際に限定したポイントになります。

各要素の導入とまとめを入れる

アウトラインが決まったら、各要素の見出しについて文章を書いていくことになります。この段になってよく見られるのが、「その要素の話題が唐突に始まり、唐突に終わる」という失敗です。

ある1つのテーマを持った文章を書くのであれば、その文章は全体として流れを持っていないと読み進めるのがとても厄介になります。アウトラインを決めて長い文章を短い部分に切り分けると、各構成要素を書きやすくなりますが、それがぶつ切りの要素の羅列になっては文章全体として非常に読みにくくなってしまいます

そのようなぶつ切りの要素の羅列にならないようにするため、ある要素の中身を書く際には、その手前までどのような話をしていて、そこからなぜ次の話題に移るのか、という、その要素の「導入」から始める必要があるのです。

また、その要素の話題を論じた後は、次の要素につなぎやすくするための「まとめ」があると繋がりがよくなるわけです。

例えばこのエントリーの「1つの要素の導入とまとめを入れる」という要素(つまりまさに今読んでいただいているこの部分)では、話題にしたい内容は3段落目からの5段落目までの文章になりますが、1,2段落を飛ばして突然「ある要素の中身を書く際には〜」と書き出していたら、「さっきまでアウトラインの話をしてたのに、突然ブツ切れて違う話題になったな?」となりますよね?1,2段落は1つ前の要素で話題にした「アウトライン」と、この要素で話題にしたい「各要素ごとの導入とまとめが欲しい」との間に流れを作る「導入」になるのです。

先ほど挙げた”Introduction”のよくあるアウトラインでは、本当に言いたい話題は第3段落ですが、導入としての第1,2段落、まとめとしての第4段落、という構成になっています。そして、各段落もまた、小さな「導入」「話題」「まとめ」という構成になっているはずです。この「導入/話題/まとめ」の入れ子構造が、流れのある長い文章の基礎になります。

この各要素の「導入」が書きにくいと感じることがあるかもしれません。それはなぜでしょうか?こういう時は、その要素が1つ前の要素から論理的に繋がりにくい内容になっている可能性があります。このような場合は改めてアウトラインに立ち返り、各要素の繋がりが悪くないかを考えるといいかもしれません。

ということで、文章を論理的に繋がった複数の短い要素に分割した(つまり、アウトラインを作った)上で、文全体としての流れを作るためには、各構成要素を「前の要素からの連結のための導入」「その要素の話題」「まとめ」で構成し、それを連ねる必要があるわけです(この段落は次の要素に移るためのこの要素の「まとめ」になるわけですね)。

文章全体の導入とまとめの”役割の違い”を意識する

この「導入」「話題」「まとめ」という構成は、文章全体でも必要です。論文で言えば、本当に言いたい話題は”Methods”と”Results”で、それに付随した議論”Discussion”も科学的には非常に重要ですが、なぜそんな研究を行ったのかという「導入」である”Introduction”と、最終的にこの研究で何がわかったのかという「まとめ」である”Conclusions”が、文章全体を流れのある読みやすいものにしてくれています。

“Introduction”は「今科学的にどのような課題があり、それを解決するためにこんな研究をした」という紹介が主な話題です。

対して”Conclusions”は「この研究でその課題にこのような解決が得られた」という提示が主な話題です。

この両者は切り口は違うものの、共に「この研究で扱った課題」と「その解決」について述べることになります。そのためか、時々“Introduction”と”Conclusions”の内容が同じことを繰り返し言っているだけ、という状態に陥っているケースを見かけます。例えば、このエントリーに関して言えば、”Introduction”で「大学院生が論文を書くときによく陥っているまずいところを紹介する」と述べて、”Conclusions”で「大学院生が論文を書くときによく陥っているまずいところを紹介した」と述べている、みたいな感じです。これはすごくダサいです。

このダサい状況を打破するためには、“Introduction”と”Conclusions”の”役割の違い”を意識する必要があります。

この両者の大きな違いは、“Introduction”は「なぜその課題を扱う必要があるのか」という過去の知見を踏まえた導入であること、”Conclusions”は「課題を解決した結果、この研究で何がわかったから、今後このようなことが期待される」という結果をまとめて未来の展望を述べることになります。なので、例えばこのエントリーで言えば、”Introduction”では「なぜ大学院生が論文を書くときによく陥っているまずいところを紹介しようと思ったのか」という動機が必要で、”Conclusions”では「このようにすると論文がうまく書けそうですね」という展望が求められるのです。

“Introduction”は先にも挙げたようなアウトラインがよく知られているのでまだ良いのですが、”Conclusions”はこれがなかなか難しかったりします。臨床研究の論文で言えば、”Conclusions”で「今回の結果から、実臨床でどのようなことが期待できるか」という展望があると、とても綺麗なまとめになるのです。

長い文章の「流れ」を作る執筆を

ということで、最近よく感じていた大学院生の論文執筆指導で感じていた問題点と、その際に指導していたことをまとめます。

まずは「長い文章を冒頭からつらつら書いているせいで、いつの間にか書きたいことがわからなくなって、論じている内容が行ったり来たりして迷子になっている」という状態が多いと感じました。それを解消するため、「論文の大きな1つのテーマを決めること」「アウトラインを作ること」を意識してもらうようにしました。

ところがその後、アウトラインを作成して長い文章を分割した個別の要素が、ぶつ切りな話題の羅列となって流れが切れる論文になっていることが多く見られました。そこで、各要素の「導入/話題/まとめ」という構成を意識した上で、論文全体でも「導入/話題/まとめ」となるという入れ子構造を意識してもらうようにしています。

その上で、この導入とまとめが同じ内容にならないよう、違いを意識する、ということも、最近よく話題にしている点に感じます。

長い文章の「流れ」を作る執筆をするために、このような文章の分割と統合を意識できれば、と思います。

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