クリニカルクエスチョン(CQ)をリサーチクエスチョン(RQ)にする、という話を前回しました。
CQをRQにする過程では、そのCQに対してすでにある程度研究がなされて答えが出ているのかどうか、を調べる必要があります。
前回はその調べる情報源として診療ガイドラインを紹介しましたが、最新のガイドラインといってもその内容は参照している現時点では多少古いし、まだあまり研究が進んでいない疾患ではガイドラインができていない場合もあります。
そこで、今回はCQの答えを探すためにどのような情報源をどのように利用するか、を考えます。
クリニカルクエスチョンとガイドライン
CQの答えの情報源としては、まず先程あげたガイドライン。
近年の診療ガイドラインの多くが、Mindsという組織が策定している「ガイドライン作成のガイドライン」とでもいうべき物に基づいて、「CQに対する回答を提示する」という形でできています。
各疾患の診療ガイドラインは、そのガイドラインを作成したある時期に、特定の検索式で抽出した論文を、ガイドライン作成班(多くの場合、厚労省から研究費をもらっている研究班)の専門家たちがレビューし、エビデンスレベルを確認しながら各CQに対する回答を作成しています。
なので、真っ当な臨床をしようと思うのであれば、CQに対してその疾患のガイドラインを当たるというのは当然のことです。
が、ガイドラインは作成開始から出版までに時間を要するし、毎年更新されるわけではありません。
例えば前回参照した「認知症疾患診療ガイドライン2017」は、2017年に発行されてからすでに2年たっていて、ガイドラインを見てみると、提示されている検索式でpubmedなどを検索した期日は大体2015年半ばになっています。
つまり、2019年現在、このガイドラインを参照するということは4年前のエビデンスに基づいてCQを解決する事になります。
これではCQに対して最新のエビデンスに基づいた医療は提供できませんし、ましてやRQに繋がるかを判断するとなると問題大有りです。
*この認知症疾患診療ガイドライン2017が出版される直前、レビー小体型認知症(DLB)の国際的な診断基準の改訂版の論文が発表され、もしかしてこれが載っていないのでは、と心配しましたが、きちんと掲載されていました。そこはさすが専門家の先生方、と当時感動しました。
このように、検索日以降でも非常に重要なエビデンスが発表されていればガイドラインに取り込む、という柔軟な対応がなされているのですね。
クリニカルクエスチョンに対する一次/二次情報源
そこでガイドラインに掲載されていない新しいエビデンス(そもそもガイドラインが作られていないような疾患についてのエビデンスも)を、CQの答えとして探索する事も重要になります。
そのためにはどこをどのように探すか、を知る必要があります。
まず、日常臨床に関わるエビデンスを探す場所として、以下のようなものが考えられます。
一次情報源
収集した生データを解析し結論づけられた結果を報告した物。PubMedなどで検索して出てくる原著論文(original articles)がこれに当たる。
二次情報源
一次情報源から得られた結果をレビューするなどして得られた、より大枠のエビデンス。Cochrane Reviewsなど。
一次、二次という順序で紹介しましたが、手っ取り早く網羅的に情報を集めるのであれば、二次情報源をまずあたり、その上で一次情報源に当たる、という順に探していくのが効率的です。
実際に前回挙げていたCQ「認知症のうつ症状に抗うつ薬は効果があるのか」の答えを探していきましょう。
二次情報源としてのCochraneを使う
二次情報源として質の高いエビデンスを提供しているものの1つがCochrane Libraryです。
Cochrane Libraryにアクセスし、検索窓で”dementia antidepressant”と入力して検索してみましょう。
2019年9月現在、7つのCochrane Reviewsがヒットします。
その一番上に来ているのが、”Antidepressant for treating depression in dementia”というそのままのタイトルのレビューです。
このレビューは2018年8月に発行されたものなので、2017年に発行された「認知症疾患診療ガイドライン2017」には反映されていません。ひとまずこのレビューは今回のCQを解決する上で必須でしょう。
またこのレビューのMethodsを見ると2017/8/16にALOISというデータベースを検索した結果をレビューしたもののようです。
ALOISはCochraneの認知症や認知機能障害に特化したデータベースのようですが、MEDLINEやEmbaseなどの主要な情報源から毎月情報収集しているもののようで、2017年7月までの論文はここでレビューされていると考えていいでしょう。
つまり、2017年7月までの一次情報はここでレビューされているので、これよりも新しい一次情報を当たると、このレビューでは把握できていない新しいエビデンスが見つかるかもしれません。
さらにMethodsではALOISデータベースでどのような検索ワードを用いて検索したかも記載されています。
一次情報を追加で検索する際の検索ワードの参考にすると、新しいエビデンスも網羅的に調べることができるでしょう。
Cochrane Reviewsなどの二次情報源の活用法
・システマティックレビューとして質の高いエビデンスを知る
・Methodsの検索日を確認し、探すべき一次情報源をいつまで遡ればいいか目安にする
・Methodsの検索ワードを確認し、一次情報源を探す際の検索ワードとして参照する
ちなみに、検索ワードをどう決めるかについて、別記事にまとめています。
一次情報源をPubMedから探す
適切な一次情報に当たるのにまず効率的なのは、先程見つけたレビューの中で重要な内容を孫引きすることです。
適宜Referencesから論文情報を引っ張り、探しに行きましょう。
その上で、そのレビューより新しい一次情報はこの方法では得られないので、きちんと検索する必要があります。
一次情報の検索によく使われるのがPubMedです。
PubMedトップページの検索窓に自分の調べたい疾患や薬剤などをタイプすれば、数多くの論文を検索することができます。
が、例えば調べたいエビデンスが治療に関するものなのか、診断に関するものなのか、などある程度カテゴリが決まっている場合は、PubMedのトップページの検索窓ではなく、トップページの真ん中のカラムにある”Clinical Queries”から検索するという方法があります。
実際にClinical Queriesの検索窓に”dementia antidepressant”とタイプし、検索します。
すると、検索結果が”Clinical Study Categories”, “Systematic Reviews”, “Medical Genetics”の3カラムに別れて表示されます。
検索結果が臨床研究、システマティックレビュー、遺伝などの基礎研究に分けられて提示されるのです。
今は臨床関連のエビデンスを調べたいのですが、今回はヒットした論文数が多いので、まずSystematic Reviewsのカラムから出来るだけ新しい、質の高そうなレビュー(つまり二次情報源)を見てみて、それでフォローされていなさそうなより新しい原著論文(つまり一次情報源)をClinical Study Categoriesから探すようにすると効率的でしょう。
また、Clinical Study Categoriesでは”Category”と”Scope”を選択することができます。
“Category”では、疫学、診断、治療、予後など、どのようなカテゴリの論文を探したいのかを選び、絞ることができます。
“Scope”では、関係が少しでもありそうな論文を全て拾い上げる(Broad)か、絞って提示する(Narrow)かを選ぶことができます。
今回は治療について調べたいので”Category”をTherapyに、論文数がだいぶ多いので”Scope”をNarrowに設定しておきます。
2019年9月検索時点では、この設定だと、Systematic Reviewsのカラムの3番目に先程Cochrane Libraryで出てきた”Antidepressant for treating depression in dementia”がヒットします。
実はこの方法を使うと、わざわざCochrane Libraryで検索しなくても、PubMedで比較的早く目的のCochrane Reviewを見つけることができます。
さて、このレビューは2017年7月までの論文をレビューしていたはずなので、Clinical Study Categoriesのカラムからは2017年7月以降に発行された、今回のCQに対応しそうな論文を引っ張りましょう。
例えば、一番上にある”Sertraline and Mirtazapine Versus Placebo in Subgroups of Depression in Dementia: Findings From the HTA-SADD Randomized Controlled Trial.”などは良さそうです。
孫引きする
ここまでは体系的な検索によって文献を探すことを挙げてきましたが、もちろんそれだけでなく、このようにして見つけた情報を孫引きする、というのも非常に重要な方法です。
ガイドラインやレビューなどの二次情報源のReferencesから孫引きするのももちろんですが、一次情報源のReferencesから孫引きする事も多いでしょう。
一次情報源の中でもIntroductionなどで非常に多くの情報を提示することを要求している雑誌が時々各分野で見られます。例えば脳神経科学の分野だとBrainなどがそれに当たるかと思います。
そのような雑誌の論文の場合、孫引きすべき論文を見つけることは非常に多くなると思います。
まとめ:クリニカルクエスチョンの答えを探す手順
ということで、今回の目的だったCQの答えを探す手順をまとめます。